飲食店の原価率30%は正解じゃない|FL比率55%で考える利益管理の実践
「原価率は30%に抑えなさい」。飲食店を始めると、誰もが一度はこの言葉を聞きます。私も元イタリアンシェフとして独立した頃、この数字を金科玉条のように守ろうとしていました。しかし沖縄で3店舗を経営するようになった今、はっきり言えることがあります。原価率30%だけを見ていると、むしろ利益を取り逃します。
結論を先に書きます。単独の原価率ではなく、食材費(Food)と人件費(Labor)を合算した「FL比率」で見てください。目安は売上の55〜60%。この枠の中でFとLをどう配分するかが、利益管理の本体です。
この記事では、原価率単独管理の罠、FL比率で見るべき理由、業態別の目安、そして現場で実際にFLを下げる打ち手までを、私自身の実務経験を交えて解説します。
飲食店の原価率30%説がなぜ危ないのか
原価率30%という数字自体が間違っているわけではありません。危ないのは「30%を超えたらダメ、切れば優秀」という単純化です。具体的に2つの罠があります。
罠1:原価率が低い商品ほど儲かる、とは限らない
例えば原価率25%で粗利450円のドリンクと、原価率40%で粗利900円のメインディッシュ。率だけ見れば前者が優等生ですが、レジに残るお金は後者が2倍です。飲食店の家賃も人件費も「率」ではなく「円」で払います。率の良い商品ばかり売ろうとして、粗利額の大きい看板商品を弱らせるのは本末転倒です。
罠2:原価を削ると、人件費が膨らむことがある
原価を下げる王道は「仕込みを内製する」ことです。既製品のソースをやめて自家製にすれば食材費は下がります。ただし、仕込みには人の時間がかかります。食材費が2%下がった代わりに人件費が3%上がったら、トータルでは負けです。逆に、多少割高でもカット済み食材を使って仕込み時間を圧縮したほうが、合計では勝つ場面もあります。FとLは常にシーソーの関係にあり、片方だけ見て判断できないのです。
FL比率とは|食材費+人件費を売上で割るだけ
FL比率の計算式はシンプルです。
- FL比率(%)=(食材費+人件費)÷ 売上高 × 100
- 食材費(F)= 当月の食材・飲料の仕入れ(棚卸で調整するとより正確)
- 人件費(L)= 社員給与・アルバイト給与・法定福利費など人に関わる費用
一般的に、FL比率55%以下なら優良、55〜60%が標準圏、60%を超えると利益が残りにくい構造と言われます。売上から FL を引いた残り(40〜45%)で家賃・水道光熱費・広告費・雑費を払い、その残りが利益です。家賃が売上の10%前後とすると、FLが60%を超えた時点で利益はかなり細ります。私は自社でも「FL55%」を新しい取り組みの絶対条件として運用しています。
具体例:月商300万円の店で計算してみる
月商300万円、食材費95万円、人件費85万円の店を考えます。FL比率は(95万円+85万円)÷300万円=60%です。売上からFLと経費を順に引いていくと、こうなります。
| 項目 | 金額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 300万円 | 100% |
| 食材費(F)+人件費(L) | 180万円 | 60% |
| 家賃 | 30万円 | 10% |
| 水道光熱費 | 18万円 | 6% |
| 広告費・消耗品・リース・通信・保険など | 約40万円 | 約13% |
| 残る営業利益 | 30万円前後 | 10%あるかどうか |
もしFL比率を3ポイント改善して57%にできれば、それだけで利益は月9万円、年間108万円変わります。FLの1ポイントは、月商300万円の店なら月3万円。この換算を頭に入れておくと、日々の仕込みやシフトの判断に金額の物差しが通ります。
業態別のFL比率・F/L配分の目安表
FL比率の合計目安は共通でも、FとLの内訳は業態でまったく違います。一般的な目安を表にまとめます。
| 業態 | F(食材費率) | L(人件費率) | FL合計の目安 |
|---|---|---|---|
| ラーメン・うどんなど麺業態 | 28〜32% | 22〜27% | 52〜58% |
| カフェ・喫茶 | 25〜30% | 25〜30% | 52〜58% |
| 居酒屋・バル | 28〜33% | 24〜28% | 54〜60% |
| イタリアン・フレンチ | 30〜35% | 23〜28% | 55〜60% |
| 焼肉(セルフ調理型) | 35〜40% | 18〜22% | 55〜60% |
| 寿司・鮮魚業態 | 38〜45% | 15〜22% | 55〜62% |
焼肉のように「お客様が調理する」業態はFを厚くLを薄くできます。逆に手仕事の多いレストランはLが重くなるぶん、Fを設計で締める必要があります。自店の型がどこに近いかをまず把握してください。数字はあくまで一般的な目安で、立地や規模で上下します。
FL比率を下げる3つの打ち手
FLを下げると言っても、闇雲な食材のグレードダウンや人減らしは客離れと現場崩壊を招きます。順番と設計が大事です。
打ち手1:メニュー設計|「合計の原価率」で組む
原価率は1品ごとではなく、注文の組み合わせ(オーダーミックス)で考えます。原価率45%の看板商品があってもいい。その代わり、一緒に出るドリンクや前菜、〆の一品に原価率20%台の商品を配置し、客単価全体で見たときに目標の率に収まるよう設計します。私の店でも、あえて原価をかけた集客商品と、利益を取る商品の役割分担を明確にしています。ポイントは3つです。
- 全商品を「販売数×粗利額」で並べ、看板・利益・脇役の役割を決める
- セットやコースで「必ず利益商品が混ざる」動線を作る
- 新メニューは単品の原価率ではなく、客単価への影響で判断する
打ち手2:ロス管理|原価率の差は「捨てた分」で生まれる
理論原価(レシピ通りに作った場合の原価)と実際原価の差は、多くの店で2〜5%あります。正体は廃棄ロス、仕込みすぎ、ポーションのブレ、まかないの管理漏れです。売上の3%なら、月商300万円の店で月9万円が黙って消えている計算になります。対策は地味ですが効きます。
- 廃棄を記録する(品目と量を書くだけで意識が変わります)
- 仕込み量を曜日別の売上実績に連動させる
- グラム単位のポーション基準を写真付きで掲示する
- 月1回でいいので棚卸をして実際原価率を出す
打ち手3:シフト設計|人時売上高で組む
人件費はシフトを組んだ瞬間にほぼ決まります。指標は「人時売上高」(売上÷総労働時間)。一般的に4,000〜5,000円が一つの目安とされます。暇な時間帯に人が余っていないか、ピークに人が足りず販売機会を落としていないか。曜日×時間帯で売上を割ってからシフトを組むと、同じ人件費でも売上への効き方が変わります。当社でも時間帯別の席稼働を出してから、アイドルタイムの配置を見直しました。削るのではなく「置き直す」感覚です。
補足:分母(売上)を上げるのも正攻法
FL比率は割り算なので、分子(食材費・人件費)を削るだけでなく、分母(売上)を上げても改善します。適正な値上げ、客単価を上げるセット提案、アイドルタイムの集客はすべてFL改善策です。特に人件費は固定費に近い性質があるため、同じ人員で売上が1割伸びれば、L比率は自動的に下がります。コスト削減だけでFLと戦うと店がやせ細ります。削る施策と伸ばす施策を必ずセットで持ってください。
まとめ|原価率は部分、FL比率が全体
最後に要点を整理します。
- 原価率30%は目安の一つにすぎず、単独で追うと判断を誤る
- 食材費と人件費はシーソーの関係。合算したFL比率55〜60%で管理する
- FとLの配分は業態で違う。自店の型に合った内訳を決める
- 下げる打ち手は、メニュー設計(ミックス)→ロス管理→シフト設計の順で
原価率は料理人の視点、FL比率は経営者の視点です。厨房出身の私は、この切り替えに数年かかりました。毎月の試算表を見るとき、まずFL比率から見る。この習慣だけで、お店の数字の見え方は変わります。今月の数字で、ぜひ一度計算してみてください。